変形労働時間制とは?制度の内容や1か月・1年単位との違いを解説
労働基準法では、労働環境の健全性を確保するため、1日8時間・1週間40時間といった労働時間の上限が定められており、それ以上労働させる場合は時間外労働として残業代を支払う義務があります。
変形労働時間制とは、所定労働時間を繁忙期には長くし、閑散期には短くすることで、全体として法定労働時間を超えないように調整する制度です。この記事では、制度の内容や1か月・1年単位との違いをわかりやすく解説します。
目次[非表示]
- 1.変形労働制とは?
- 1.1.労働時間の基本
- 1.2.変形労働時間制とは
- 1.3.変形労働制のメリット
- 1.4.変形労働時間制のデメリット
- 2.変形労働時間制の種類
- 2.1.1カ月単位の変形労働時間制
- 2.2.1年単位の変形労働時間制
- 2.3.1週間単位の非定型的変形労働時間制
- 2.4.フレックスタイム制
- 3.自社にあった労働時間制度の選び方
- 4.変形労働時間制の届出の流れ
- 4.1.現状の勤怠実績の調査・把握
- 4.2.対象者や労働時間を決定
- 4.3.就業規則の見直し
- 4.4.労使協定の締結
- 4.5.労働基準監督署へ届出
- 5.適切な勤怠時間の管理方法は
- 5.1.勤怠管理の重要性
- 6.まとめ
変形労働制とは?
労働時間の基本
法定労働時間は1日8時間、1週間に40時間を超えてはいけないと定められています。(労基法32条)
(労働時間・休日に関する原則)
変形労働時間制とは
変形労働時間制とは、業務の繁閑や特殊性に応じて所定労働時間を柔軟に調整できる制度です。法定労働時間(1日8時間、週40時間)にこだわらず、業務の繁閑に合わせて、月・年単位で労働時間を変形させることができます。
変形労働制のメリット
通常、法定労働時間に基づき、1日8時間を超える労働に対し割増賃金を支払う必要がありますが、変形労働時間制を導入することで発生するメリットもあります。
一定期間中における総労働時間が法定内であれば、1日8時間、または週40時間を超える労働があったとしても、割増賃金の支払いが不要になります。
繁忙期と閑散期がはっきりとわかる業種にとっては、変形労働時間制を導入するメリットは大きいと考えられます。
変形労働時間制のデメリット
変形労働時間制は日や週によって異なる所定労働時間を持つため、勤怠管理が非常に複雑化し、担当者にとって煩雑な作業が増えるという点が挙げられます。
企業内で変形労働時間制を一部の部署でのみ適応した場合、他部署との就業時間が合わなくなるデメリットも生じます。
これらを踏まえ変形労働時間制の導入の際は、目的を明確にすることが大切です。
変形労働時間制の種類
変形労働時間制は期間によって、運用方法等が異なります。
- 1カ月単位の変形労働時間制
- 1年単位の変形労働時間制
- 1週間単位の非定型的変形労働時間制
- フレックスタイム制
この4種類の制度について、「休日の付与日数 」「始業・終業時間の決定権」「労使協定締結の要否」の項目を比較した表がこちらです。
(4種類の制度の概要比較)
1ヵ月単位 |
1年単位 |
1週間単位 |
フレックスタイム制 |
|
休日の付与日数 |
週1日または4週4日の休日) |
週1日連続労働日数は6日(特定期間は12日) |
週1日または4週4日の休日 |
週1日または4週4日の休日 |
始業・終業時間の決定権 |
会社 |
会社 |
会社 |
社員 |
労使協定締結 の要否 |
要 (労使協定または就業規則) |
要 |
要 |
要 |
以下、詳細をみていきます。
1カ月単位の変形労働時間制
1ヵ月以内の一定の期間を平均して、1週間あたりの労働時間が法定労働時間である40時間(特殊事業は44時間)を超えない範囲で、所定労働時間を定める制度です。
1ヶ月単位の変形労働時間制は、宿泊業・飲食サービス業などの、休日日数の少ない会社や、一回の労働時間が長時間となるような業種で導入されています。
1年単位の変形労働時間制
1年以内の一定期間を平均して、1週間あたりの労働時間が40時間を超えないように、業務の繁閑に応じて所定労働時間を柔軟に設定する制度です。
流通業のセール時期などの対応に適しています。
1週間単位の非定型的変形労働時間制
1週間のなかで、曜日の繁閑にあわせて労働時間を調整し、平均して所定労働時間内(週40時間)におさまるように調整する制度です。ただし、1週間単位の変形労働時間制の対象は、規模30人未満の小売業、旅館、料理・飲食店の事業者のみとなります。
フレックスタイム制
フレックスタイム制は、これまでの変形労働時間制とは特徴が異なります。
フレックスタイム制は、始業時間と終業時間を従業員自らが自由に決めることができる制度で、労働すべき時間(清算期間)を平均して週40時間を超えない範囲で設定し、その範囲内における労働日の始業及び終業の時刻の決定を労働者の裁量に委ねる制度です。
同じ変形労働時間制であっても、会社が始業・終業時刻を指定する他の制度とは違い、従業員一人ひとりが就業時間の管理責任を持つ必要があります。
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自社にあった労働時間制度の選び方
ここまで、4つの変形労働時間制を紹介しましたが、実際にどの制度にすればよいのでしょうか?厚生労働省が変形労働時間制の考え方を、チャート式で示してくれています。
(参考:労働時間制度の選択方法についての基本的な考え方)
出典:厚生労働省 徳島労働局 「労働時間制度の選択方法についての基本的な考え方 」
業務実態に応じた労働時間制の選択を検討等の検討を行い、変化に対応していくことで、従業員が働く環境を整えていくことが重要です。
変形労働時間制の届出の流れ
事業者が変形労働時間制を導入するには、一定の条件を満たしたうえで所轄の労働基準監督署へ届け出ることが必要です。届出の流れはこちらです。
- 現状の労働状況調査・把握
- 対象者や労働時間を決定
- 就業規則の見直し
- 労使協定の締結
- 労働基準監督署へ届出
順にみていきます。
現状の勤怠実績の調査・把握
まずは現在の労働状況を調査することが大切です。現状がわからないと、
- 制度を導入すべきかどうか
- 対象期間や繁忙期はいつなのか
- 変形期間中の労働時間はどれくらいが適切なのか
といった情報の把握や決定ができないためです。 調査した内容は労働基準監督署の提出書類に記載する必要があるため、正確に調査しましょう。
対象者や労働時間を決定
調査内容を確認しながら、制度の対象とする従業員の範囲や労働時間について具体的に決定していきます。労働時間が超過している従業員や労働時間が超過しやすい時期、どのように調整すべきかなどを検討していきます。
従業員への説明会を実施したり、個別に相談の場を設けたりすることで、事前に疑問点や不安を解消していくと良いでしょう。
就業規則の見直し
変形労働時間制を採用すると、従業員の働き方が全く変わってしまうため、混乱を防ぐためにも就業規則の変更が必要となります。就業規則では、以下のような内容を規定しましょう。
- 対象となる期間と起算日
- 対象となる労働者の範囲
- 変形期間を平均し、労働時間が法定労働時間を超えない定め
- 各労働日の始業・終業時刻
変更した就業規則は全従業員に周知することが必要です。
労使協定の締結
変形労働時間制を導入する場合は「労使協定」を締結する必要があります。労使協定には、以下の事項を定める必要があります。
- 対象労働者の範囲
- 対象期間と起算日
- 特定期間
- 労働日と労働日ごとの労働時間
- 労使協定の有効期間
ただし、1ヶ月単位の労働時間制と清算期間を1カ月以内に設定したフレックスタイム制の場合は、「就業規則」あるいは「就業規則に準じたもの」に上記の内容を定めていれば、労使協定の締結は不要です。
労働基準監督署へ届出
労使協定を締結したら、「労働基準監督署」へ届出をおこないます。
労働基準監督署へ就業規則を届け出る際には、労働者の過半数代表に意見を聴いて意見書を作成し、就業規則と一緒に提出する必要があります。
制度によってそれそれで定める項目が異なるケースもありますので、制度に応じて厚生労働省の下記リンクをご確認ください。
適切な勤怠時間の管理方法は
変形労働時間制は時季などによって労働時間が変わるのが特徴です。その分、従業員ごとの勤務時間の管理や残業、給与の計算などが複雑化し、勤怠管理は難しくなります。
勤怠管理の重要性
未払いの発生をはじめとしたトラブルを防ぐために、正しい勤怠管理を行うことは必須条件です。勤怠管理ができていなければ、誰が何時間働いたのかを把握することができないからです。
従業員数が多いほど正確な勤怠管理は難しいため、システムの活用が有効です。出退勤時刻の打刻や休暇申請、シフト作成など、従業員ごとの勤怠情報を一元管理できるシステム のことを勤怠管理システムとよびます。
(勤怠管理システムと給与計算システムの連携イメージ)
正確な残業時間が把握・可視化できるだけでなく、労働時間の自動集計や給与計算システムとの連携などが可能であり、従来のタイムカード方式やExcel集計と比べて、勤怠管理にかかる工数を大幅に減らせます。
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まとめ
業務の繁閑に合わせて労働時間を柔軟に調整できる変形労働時間制は、企業や従業員にとってメリットが大きいものの、運用を間違うと法令違反の生じる恐れがあります。
制度導入の際は、複雑な残業時間の計算方法や必要な手続きなどを十分理解した上で検討・運用しすることが大切です。
>勤怠管理システムの導入事例はこちら。
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